釣り具の3大革命という話を聞いたことがあるだろうか!? 釣り具の歴史の中で、この3大革命があったからこそ、現在の道具はここまで進化してきたのだと思う。
1つ目は、ベイトリールにクラッチが取り付けられたこと。僕自身が好奇心もあり、ディレクト・ドライブのベイトリールを実際の釣りで使ってみたこともある。想像している以上に、軽いルアーを投げる事は出来るが、何よりも気になったのはストライクの時にハンドルが逆転してしまうことだ。投げる事の難しさよりも、指をたたかれる恐怖心があった。
2つ目は、NASAの宇宙開発で出来上がった副産物でもあるカーボン素材だ。軽くて強いこの素材は、アメリカ空軍にとっても必要不可欠な戦闘機のボディー素材にもなった。もちろん、釣りの世界でもロッドが大きく進化したことは言うまでもない。現在ではエアー・ガイドという形で、今まででは想像もできなかった領域にまで入ってきている。僕の最新ロッドでもあるカリプソはこのAGS技術によって次元の違うキャスタビリティーを手に入れることができた。
そして、3つ目が釣り糸の進化だ。ナイロンの釣り糸がデュポン社によって開発されたのは1938年のことだった。それまでの自然繊維で作られていたラインでは、釣りに出かけた後は、ラインをリールから外して陰干しをしておかないと腐ってしまった。無機質のナイロンラインになったことによって、陰干しの必要がなくなったのだから、夢の進化であったと言えるだろう。以来、細くて、強くて、柔らかいという3要素のバランスを考えながら釣り糸の開発は続けられてきた。現在の釣り糸の単位面積当たりの強度は当時のものの3倍くらいにはなっている。
「光陰矢の如し」という言葉が表すように月日が過ぎるのは本当に速い。特に自分が没頭できるものに費やす時間は驚くようなスピードで過ぎていく。アインシュタインが学生達に相対性理論を説明した時に、相対性理論は簡単に説明すれば、好意を持つ女の子と過ごす1時間が興味のない大学講義の1時間より短く感じるようなものだと説明したことがあるそうだ。僕が釣り糸の仕事を始めたのが1984年のことなので、なんと33年間も釣り糸の開発もしてきたことになる。感覚だけで話すと、そんなに長いことやっていたとは思えないのが不思議なくらいだ。でも、この33年間の間でも釣り糸は大きく進化をしてきたと思う。
僕が昨年来、最も興味を持っているのは、ルアーの特性を極限まで引き出すことができるラインの開発だ。そもそも、ミノーとスピナーベイトでは極限まで特性を引き出すためには伸度や強度だけではなく、耐摩耗性などの特性も同じレベルを持つ必要はないと思う。もっと、細かく考えると、春先のミノーと夏以降のミノーとでは、ラインの伸度設定などもかなり変える方がストライク率を上げることができると思う。
ルアーを極限まで動かしきることを念頭に作り出した僕の最新作でもあるカリプソというロッドは5フィート5インチのショート・ロッドでありながらAGSガイドシステムを取り入れている。日米と問わず、このクラスのロッドでAGS仕様は他にはない。そこまでの究極のロッドを作り出してしまっただけに、ラインにもこだわってみたいと思っている。僕が自信を持って使い続けてきたSARが大きく進化する日が来るのもそう遠くはないかも知れない。